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管理栄養士コラム

2017.05.01 妊娠中の血糖管理と妊娠中の炭水化物摂取について

 近年、糖質制限ダイエットに注目が集まっていますね。ブームはひと段落というところかもしませんが、コンビニや外食チェーン店でも"低糖質"をウリにした商品を見かけるようになりました。さて今回は妊婦さんを対象に検討した、妊娠中のご飯・パンなどの炭水化物摂取と血糖値との関連について、我々の研究成果についてご紹介します1)。

 妊婦さんは、お腹の赤ちゃんの成長や母体の健康を維持するために、必要となる栄養量が増加します。妊娠の進行(経過)に伴い、必要なカロリー(エネルギー量)も多くなるので、しっかりご飯、パン、麺などの主食を食べてエネルギーを補給する必要があります。妊娠していない、中年男女を対象としたアジアの研究では、ご飯(白米)の摂取量が多い人やエネルギー摂取量に占める炭水化物の割合が多い人では、糖尿病発症リスクが高かったことが報告されています2)3)。妊婦さんにおいても血糖管理は大切ですが、妊娠中の食事について、ご飯やパン等を主とした炭水化物からのカロリー(エネルギー)摂取と高血糖との関連については不明でした。そこで本研究では、妊娠中の食事において、エネルギー摂取量に占める炭水化物のパーセンテージと高血糖との関係について調査しました。

 この研究では、健常な妊婦さん325名の方を対象に、妊娠初期に3日間のお食事調査を実施し、お食事全体のカロリー(エネルギー)に占める炭水化物のパーセンテージを算出、炭水化物のパーセンテージが少ない群(50%E)、中くらいの群(55%E)、多い群(60%E)に分け、妊娠中期に実施した血液検査(血糖値)との関係を検討しました。3つの群で高血糖(50g糖負荷後1時間値140mg以上)のなりやすさを比較した結果、炭水化物の多い食事の群(60%E)において、もっとも高血糖になりにくかったことが明らかになりました。このことから、妊娠中の血糖管理のために、炭水化物からのカロリー(エネルギー)摂取を控える必要はないことが示唆されました。

 本研究は、日本人妊婦を対象として炭水化物摂取量と妊娠中の糖代謝異常発症リスクとの関連を示した最初の研究です。胎児の健やかな発育のために、母親の十分なカロリー(エネルギー)摂取は重要で、さらに具体的には、たんぱく質(肉・魚・卵等)、脂質(油)、炭水化物(ごはん、パン、麺等)をどのようなバランス(割合)で摂取するかが大切だと考えられています。本研究において、炭水化物の多い食事の群(食事全体のカロリーのおよそ60%を占める)で高血糖発症リスクが低下したことから、糖代謝異常発症予防の観点からは、妊娠中の食事において炭水化物からのカロリー(エネルギー)摂取を制限する必要はないと考えられました。しかし、今回の研究では、つわりの影響を受けやすい妊娠初期の食事を調査していることから、摂取量の日間変動が非妊娠時よりも大きくなっている可能性があり、炭水化物摂取量の群分けに影響が生じた可能性が考えられます。今後日本人妊婦において、他の栄養素との摂取バランスも含めたさらなる研究が必要と考えられます。

 最後に、日本人妊婦では、正常体重か低体重(やせ)であるにもかかわらず、およそ1/3程度の方が、妊娠中でも自己判断でダイエットを行っているという報告4)があります。妊婦の皆さんは、赤ちゃんの健やかな発育・成長のためにも、妊娠中に炭水化物の摂取を意識的に控えることなく、十分にカロリー(エネルギー)を補給し、生涯を通じて母子ともに健やかな未来を育んでいただければと思います。

【参考資料】
1) Tajima R, Yachi Y, Tanaka Y, Kawasaki YA, Nishibata I, Hirose AS, Horikawa C, Kodama S, Iida K, Sone H. Carbohydrate intake during early pregnancy is inversely associated with abnormal glucose challenge test results in Japanese pregnant women. Diabetes Metab Res Rev. in press.
2) Sakurai M, Nakagawa H, et al. Dietary carbohydrate intake, presence of obesity and the incident risk of type 2 diabetes in Japanese men. J Diabetes Investig. 7(3):343-51, 2016.
3) Nanri A, Mizoue T, Noda M, Takahashi Y, Kato M, Inoue M, Tsugane S; Japan Public Health Center-based Prospective Study Group.. Rice intake and type 2 diabetes in Japanese men and women: the Japan Public Health Center-based Prospective Study. Am J Clin Nutr. 92(6):1468-77, 2010..
4) Takimoto H, Mitsuishi C, Kato N. Attitudes toward pregnancy related changes and self-judged dieting behavior. Asia Pac J Clin Nutr. 20(2):212-9, 2011..

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