日本では、中高齢者や男性における肥満が社会問題化している一方で、若年女性においてはやせ過ぎが深刻で、令和5年国民健康・栄養調査1)によると、体格指数(BMI)が18.5未満の低体重の女性は、20~30歳代で20.2%と5人に1人が痩せの状態であることが明らかにされています。若年女性が「体重を減らしたい、やせたい」というやせ願望を持っていることは、世界中で報告されていますが、国レベルでこれほど顕著に若年女性のBMIが実際に低下しているのは世界的にも稀な状況と言われています。
若年女性のやせ過ぎや偏食が深刻化する中、日本肥満学会は、閉経前までの成人女性における低体重や低栄養に関連する健康障害を体系的に整理し、新たな概念 (症候群)として「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome;FUS)」を提示しました。これは、閉経前の成人女性において低体重・低栄養を共通基盤に、さまざまな疾患、症状などの健康障害が集積されるというもので、低体重・低栄養のリスクに警鐘を鳴らす社会への取り組みを推進することも目的とされています。このことは、メディアでの報道も広くなされていましたので、ご存じの方もいらっしゃるかと思います。今回と次回にわたって、現代日本において、「痩せるべきでない人」までが減量に取り組み、痩せ過ぎの女性が増加している現状と、痩せの健康障害リスクについて概説したいと思います。
前述の令和5年「国民健康・栄養調査」1)の結果概要によると、男性の20歳以上の肥満者(BMI≧25㎏/m2)の割合は31.7%で、直近10年間で有意に増加したことが明らかにされています。国際的に肥満の割合は増加の一途をたどっており、日本においても男性については長期的に増加し続けている一方で、女性においては、肥満者の有意な増減はみられませんが、若い女性のやせ(BMI<18.5kg/m2)者の割合は2割を超え、その高さが懸念されているところです。この割合は、食糧不足による低栄養のリスクが低い先進国においては、特異的に高い状況にあると言えるでしょう。さて、ご存じの方も多いと思いますが、BMIとはBody Mass Indexの略で、世界共通の肥満度を表す体格指数で、[体重(kg)]÷[身長(m)2]で求められます。日本肥満学会の基準では、25以上を肥満、18.5未満は「低体重」(やせ)と定義し、18.5以上25未満は「普通体重」に分類されます。
様々な研究において、日本人女性における肥満認知や理想体重の設定が過度に低く、例えば低体重の若年女性おいて、肥満だと感じる体格がBMI20.5kg/m2と極めて低く2)(BMI20.5kg/m2とは、身長157㎝の場合、体重50.5kgに相当)、体重に対する厳格過ぎる認知やボディイメージの歪みがあることが示唆されています(※低体重は、意図的な摂食制限により生じる場合がある一方で、痩せの日本人女性の約4割が食事制限を含む意図的減量行動を取っていないという報告もあり、体質的に痩せている人も含まれている可能性も明らかになっています)。そして近年では安易な痩身法、不適切な減量法として社会問題となっているのが、糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受動体作動薬の適応外使用3)です。肥満症や2型糖尿病を対象に開発・承認されたGLP-1受動体作動薬などを、「痩せ薬」として販売・使用されるケースが常態化し、低体重や正常体重の女性が用いていることが報告されています。美容・痩身目的で入手しようとする女性と、そのニーズに対してオンライン処方する医療機関もあり、副作用リスク(低血糖、消化器症状、急性膵炎等)に加えて、過度なダイエット行動の助長といった社会的懸念が高まる状況にあることから、日本肥満学会は2023年11月に「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」4)を発出する事態となっています。
若年期における過度の低体重や低栄養は、骨の成長や生殖機能の発達といった重要な身体機能に加え、その後のライフコース全体や次世代の健康にも影響を及ぼす可能性5-6)が懸念されており、痩せすぎを未然に防ぐことは重要な健康課題と考えられます。低体重及び低栄養による健康リスクや症状については、次回のコラムで概説したいと思います。
参考文献
1.令和5年国民健康・栄養調査結果の概要
2.Murofushi Y, Yamaguchi S, Kadoya H, et al: Multidimensional background examination of young underweight Japanese women: focusing on their dieting experiences. Front Public Health 2023;11:1130252.
3.宮川 政: 糖尿病治療薬等の適応外使用について. 日本医師会, 2023
4.肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント. 日本肥満学会, 2023
5.Yachi Y, Tanaka Y, Sone H, et al: Low BMI at age 20 years predicts gestational diabetes independent of BMI in early pregnancy in Japan: Tanaka Women's Clinic Study. Diabet Med 2013; 30(1):70-3.
6.Yachi Y, Tanaka Y, Sone H, et al: Second trimester postload glucose level as an important predictor of low birth weight infants: Tanaka Women's Clinic Study. Diabetes Res Clin Pract 2014;105(3):e16-9.