若年女性のやせ過ぎや偏食が深刻化する中、日本肥満学会は、閉経前までの成人女性における低体重や低栄養に関連する健康障害を体系的に整理し、新たな概念 (症候群)として「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome;FUS)」を提示しました。FUSは、「低体重または低栄養の状態を背景として、それを原因とした疾患・症状・徴候を合併している状態」と定義づけられ、18歳以上から閉経前の女性を対象とした概念です。今回は、女性における低体重および低栄養による健康リスクや症状について、日本肥満学会のホームページに掲載されている情報1)を交えながら、概説したいと思います。
日本においては、成長期にある学童期・思春期女子から児を生み育てるために体重増加が求められる妊婦・授乳婦に至るまで、特に若い女性を中心に“痩せている=美しい”とする社会的価値観が浸透し、過度で不必要な食事制限を行っている事例が多く報告されています。若い女性が「体重を減らしたい、やせたい」という、いわゆる“やせ願望”を持っていることは世界中で報告されていますが、国レベルでこれほど顕著に若い女性のBMI(世界共通の肥満度を表す体格指数;[体重(kg)]÷[身長(m)2]で求められる。前回コラム参照ください)が実際に低下しているのは世界的にも稀な状況であるといえるでしょう。BMIは6歳ごろに最小になった後、年齢とともに増加するのが一般的で、我々の検討においても米国人男女や日本人男性では、10歳以降は年齢とともにBMIの増加を認めた一方で、日本人女性においては、18歳ごろにBMIの増加が止まり、10代後半から20代前半にかけて年齢とともに減少に転じる傾向が見られ2)、米国人男女や日本人男性には見られない特異な傾向を認めています。
若年期の低体重・低栄養は、骨量低下および将来の骨粗鬆症リスクの上昇につながることに加え、月経周期異常や不妊、妊娠合併症リスクの上昇が懸念されています。低栄養の場合、複数のビタミン、ミネラルの不足が生じやすく、貧血や免疫機能の低下などの健康障害や代謝異常(耐糖能異常等)を引き起こす可能性や、筋量や筋力低下によって将来サルコペニアへと進展する可能性も懸念されています。この筋量の低下は、耐糖能への影響も懸念されており、我々の検討において、妊娠前の低体重は妊娠糖尿病発症のリスク因子である可能性が示唆されています3)。観察研究のためのそのメカニズムについては言及できないものの、やせによる筋肉量低下が血糖コントロールに影響を及ぼした可能性や、青年期のやせによる身体に必要な栄養素の全体的な摂取不足の影響等が考えられています。そしてやせた状態で妊娠した場合、2500g未満で生まれる低出生体重児を出産するリスクが高く4)、低出生体重児は将来、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症などの疾患になるリスクが高いことが疫学研究において示唆されていることから、わが国において妊娠前のやせを未然に防ぐことは重要な健康課題と考えられています。国民健康づくり運動を進める上での基本方針である「健康日本21(第三次)」にも、“若年女性のやせ(BMI18.5未満の20歳~30歳代女性の割合)の減少”が目標として掲げられており5)、国をあげて取り組むべき健康課題の項目のひとつとなっています。さらに低体重や低栄養状態は、倦怠感、睡眠障害などの身体症状を引き起こすとともに、抑うつ、不安、集中力低下など神経精神症状のリスクがあることが報告されています。このように、若年期(妊娠前および妊娠中)の体型や栄養状態が、女性本人と次世代の一生涯の健康に影響を及ぼす可能性が近年明らかになりつつある現状から、低体重・低栄養に対する早期からの適切なアプローチと予防(小中学校における食育や保健の授業を通じた正しい食習慣および体型認識の獲得、年齢的に若年層はSNS上の情報への感受性が高いことから、正確な情報を取得する情報リテラシーの向上など)が不可欠と考えられています。
さて、FUSの原因は多面的で、個人の身体的特性(体質性やせ;生来の体質によるもの)、貧困や社会的支援の不足による十分な食事摂取の困難といった背景、SNSを含むメディアの影響による“やせ願望”の存在など、社会的要因、心理的要因が複雑に絡み合って生じるとされていることから、問題解決につながるような環境づくりの推進や政治的施策が必須と考えられています。FUSの対応には、「原因に応じた個別的なアプローチ」と「社会・教育レベルでの包括的な介入」の両面が求められており、FUSを単なる個人の責任としてとらえるのではなく、教育現場における健康啓発に加え、心理的支援体制を強化すべく、ファッション・美容産業との連携(やせを過剰に推奨する広告表現の見直しなど)、FUS予防・介入プログラムの充実など、教育・医療・行政・産業界が一体となった総合的アプローチの推進がいま求められています。
参考文献
1.閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題 ―新たな症候群の確立について―. 日本肥満学会, 2025
2.Sugawara A, Kodama S, Sone H, et al: Thinness in Japanese young women. Epidemiology 2009;20(3):464-5.
3.Yachi Y, Tanaka Y, Sone H, et al: Low BMI at age 20 years predicts gestational diabetes independent of BMI in early pregnancy in Japan: Tanaka Women's Clinic Study. Diabet Med 2013; 30(1):70-3.
4.Yachi Y, Tanaka Y, Sone H, et al: Second trimester postload glucose level as an important predictor of low birth weight infants: Tanaka Women's Clinic Study. Diabetes Res Clin Pract 2014;105(3):e16-9.
5.厚生労働省. 健康日本21(第三次)の概要