オリンピックでは、毎日熱戦が繰り広げられ、テレビの前に釘づけになった方も多いことと思います。選手たちの競技に取り組むひたむきな姿勢に、何度も胸が熱くなりました。さて、今回はテレビつながりで、健康とテレビとの関係についての研究結果をご紹介します。
米国立がん研究所(NCI)が行った調査によると、テレビ視聴時間が長い人では運動習慣の有無にかかわらず、がんや心臓病、糖尿病など様々な疾患で死亡するリスクが高いことが示唆されています1)。テレビ視聴時間と疾患発症や死亡リスクとの関係を検討した研究はこのほかにも多くあり2)3)、その関連について諸説ありますが、テレビ視聴は座位時間の指標と考えられ、座位時間が長いと身体活動が低下し、疾患発症や死亡率に関連するのではないかと考えられています。また、最近発表された大阪大学研究チームの検討では、テレビを同じ姿勢で長時間見ると、肺塞栓症*の死亡リスク上昇と関連することが明らかにされています4)。1日5時間以上視聴する人は、2.5時間未満の人に比べて肺塞栓症による死亡リスクが2.5倍になるとのことで、この結果は、テレビを見ているときに足を動かしていないことが原因であると考えられています。研究チームによると、今回の研究で解析されたデータは、パソコンやスマートフォンが盛んになる前のもので、今後はこれらの利用状況と肺塞栓症との関連調査も必要である、としています。
近年は、テレビよりもスマートフォン(ゲームアプリやSNSの利用)やパソコンの視聴時間の方が長い人が多いと考えられますが、長時間・同じ姿勢で・視聴する、という点についてはこれらの結果と差異はないものと考えられます。バス1停留所分歩こう、エスカレータを使わず階段で、という細切れの身体活動量の蓄積ももちろん有意義だと思いますが、テレビやパソコン、スマートフォンに触れる時間の見直しも、現代人が健康を守るうえで大切なのかもしれません。
*肺塞栓症とは:肺動脈に血液の塊(血栓)が詰まる病気のことで、この血栓の9割以上は「脚(あし)」の静脈内にできる。下肢や骨盤内の血管に血液がうっ滞することで血栓を形成し、これが血流に乗って肺に運ばれ、肺動脈を閉塞することで生じる。呼吸困難や胸痛など症状はさまざまだが、場合によっては致死的になる。飛行機の長時間フライト後に起こる肺塞栓症はエコノミークラス症候群として知られている。熊本県などで発生した一連の地震で、多くの人がエコノミークラス症候群とみられる症状で病院に搬送され、避難所の生活者においても、水分補給や手足を伸ばすなどして血栓ができづらくする工夫が必須と考えられている。