日常的に介護の必要なく心身ともに健康で、日常生活が制限されることなく暮らせる期間を健康寿命といい、平均寿命から寝たきりなどの介護状態の期間を差し引いて算出します。わが国は世界最長クラスの寿命を実現しましたが、健康寿命との差が大きいことが問題視されていることについて、以前のコラムでお話ししました。健康寿命と平均寿命の差の原因のひとつとして挙げられるのが骨粗鬆症です。骨粗鬆症によって骨量が低下して骨がもろくなると、ささいな転倒でも骨折しやすくなります。治療が長引き、足腰の筋力が低下(→身体機能の低下)すると、そのまま寝たきりになる可能性が高まり、日常生活で介護が必要になるおそれが高まることが懸念されています。骨粗鬆症の危険因子には、加齢や性(女性)といった変容できないものと、栄養のアンバランスや運動不足といった生活習慣に関わるもので、努力によって改善できるものがあります。歳をとることは今のところは止めることができませんから、変えることができるもの、つまり生活習慣の改善により危険因子をできるだけ抑えることが骨粗鬆症の予防につながると考えられます。今回は、運動習慣について考えてみたいと思います。
骨を強くするためには、骨に負荷(圧力)がかかる運動を行うことが大切と言われています。重力のある地上では、運動をすることで骨に適度な負荷が加わり、骨にカルシウムが蓄積しやすくなることが知られています。一方、微小重力の宇宙では、骨への荷重負荷がかからないため、骨からカルシウムが放出され、骨粗鬆症患者の約10倍の速さで骨量が減少することが宇宙開発の研究で示唆されています。宇宙飛行士の約1か月間のミッションでは、骨量は約1.0~1.5%減少するとされ、これは骨粗鬆症患者が1年以上経て減少する量に相当することから、その減少率の大きさには驚くべきものがあります。
骨の健康を維持するためには、ウォーキングやジョギングのような重力のかかる、骨に刺激が加わる運動が効果的だと考えられます。(○注骨粗しょう症治療中の方や膝に痛みがある方は、整形外科医に相談してから運動するようにしましょう。)健康維持増進のためには運動が大切、ということはわかってはいても、運動を始めようにも、時間的にも(精神的にも?)余裕がない方もいらっしゃるかと思います。あまり気負わず、たとえば移動の際は、徒歩や階段昇降を心がけるなど、日常生活のなかでできるだけ運動量を増やすように努力し、日々の身体の状態にあわせて無理なく続けること、習慣として継続していくことが大切です。オフィスや駅での移動時は少し時間がかかってもエレベータは使わず必ず階段を使おう、車で買い物に出かけた際はできるだけ遠くに駐車し、歩く距離を確保しよう、そんなことから始めて日々の習慣として定着させていくことも大切だと思います。次回の食生活編に続きます。
【参考資料】
1) 骨粗鬆症財団. 老人保健法による骨粗鬆症予防マニュアル.
2) 財団法人 日本公衆衛生協会. 地域保健におけるエビデンスに基づく骨折・骨粗鬆症予防ガイドライン.
3)骨粗鬆症予防のための運動 -骨に刺激が加わる運動を/ e-ヘルスネット.